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- 2017.03.10
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当院の推奨する葉酸含有マルチビタミンサプリメント、エレビット
葉酸の欠乏と、一部の胎児奇形(神経管閉鎖不全)との関連が確実視されています。本来の日本食は、(緑黄色)野菜をしっかりととる食事のため、そのような異常は多くはありませんでしたが、食の欧米化といった近年の食事環境の変化により神経管閉鎖不全は増加してきています。
この奇形を減らすのには、妊娠前からの葉酸製剤あるいは葉酸を含むサプリメントの服用が有用であることは、医学的なエビデンスとして確立しています。
以前から葉酸の重要性については、院長阪本の外来で啓蒙してきましたが、今回信頼できる製薬メーカーであるバイエル薬品から、十分量の葉酸を含有するマルチビタミンサプリメントが発売されました。このエレビットという製品は、日本ではサプリメントのあつかいですが、原産国のハンガリーでは薬品として認可されています。
準備ができ次第、当院でも4500円で購入が可能になります。もちろんドラッグストアなどでもう少し購入しやすい価格のサプリメントをお使いなら、それでもかまいません
これから妊娠を目指される方、妊娠初期の方は、積極的に葉酸接種を心掛けるようにお願いします。
エレビットの詳細情報は以下のリンクからご覧ください。
エレビットの案内
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- 2016.01.26
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無痛分娩に関するご質問あり、以下のようにお答えしました。
一般的な内容で、私の基本的な考えをお伝えする文章ですので、一部改編してSACRAブログにも掲載します。
以下本文
分娩のための痛み、陣痛に対する対応は、国柄で大きく異なります。
たとえばアメリカはほぼ全例で無痛分娩です。これはアメリカ人の合理主義と大きく関連すると思われます。男性にはなくて、女性のみに陣痛の苦しみが与えられるのは不合理だから、人類の科学技術の進歩による硬膜外麻酔を利用して、その痛みをキャンセルしてお産に臨む。これは、とてもアメリカ的だと思います。
私の留学先は英国でしたが、英国で無痛分娩を選択されるのは半数程度です。去年お産されたキャサリン妃は無痛分娩でしたが、全体ではほぼ半数のかたは日本と同じ、痛みを乗り越えてのお産を選択されます。
ヨーロッパでもオランダは、少し毛色が変わっていて、マリファナが合法であったり安楽死が認められています。オランダではいまだに自宅分娩も結構多いと留学中に聞きました。
翻って日本ですが、「産みの苦しみ」を良い言葉として使います。「輝かしい成果は、それ過程の努力があるからこそなお光り輝く」というメンタリティーを、日本人は持っています。ラグビーワールドカップで、強豪南アフリカを撃破したのは、エディー・ジョーンズのもとで苦しい練習に明け暮れたから強くなった・・といったストーリーを、私を含めて日本人は好みます。
また、日本人の骨盤は西洋人に比べると狭く、全例に無痛分娩を行うと、適切な「いきみ」が生じないため、難産が増えると言われています。
その2点のために、日本で無痛分娩が一般化しないと考えられます。
では、無痛分娩でないお産は苦しみだけなのでしょうか?
じつは、痛みを乗り越える自然の力があります。脳内モルヒネ、脳内麻薬あるいはエンドルフィンといった多幸感をもたらす生体内物質が、分娩中の母体の脳で多量に分泌されていることが知られています。陣痛は当然痛いですが、ずっと痛いわけではなく、痛くなっては引いていきます。
私の妻の話では、間欠期は後ろに引きこまれるように気持ちよくなって眠くなり、また痛みの山が来て、そしてまた引いていく・・・。それが陣痛だとのことです。これはエンドルフィンが脳内に充満している状態と考えられます。そして頑張って頑張って、最後に赤ちゃんがうまれると陣痛の痛みが消えます。そのとき母体は、脳内にエンドルフィンが充満した、非常にハッピーな状態で赤ちゃんとの最初の出会いを果たすことになります。これが母児のつながりをがっちりと強固なものにすると考えられています。つまり、自然な分娩は、無痛分娩の反対の有痛分娩ではなく、自然の痛みを乗り越えるメカニズムを発動させるお産です。
神様は陣痛の痛みを残されました。これはおそらく分娩の進行に必要だからです。
しかしその痛みを乗り越える仕組みも、神様はちゃんと体の中に作ってくれています。
アメリカ風の合理主義で、痛みをキャンセルしてお産に臨むのもまた一つの方法です。それを御希望なら、当院では対応できません。
SACRAでは、助産師がたくさんいますので、それぞれのやり方で、上記の痛みを乗り越えるメカニズムの発動をサポートします。もしそのようなお産を選択されるなら、喜んで当院での管理をお引き受けします。
お大事になさってください。
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- 2012.07.16
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先々週(たぶん今週も)の産科外来が混雑して、皆さんにも大変ご迷惑をかけましたが、ジュネーブで開催された国際妊娠高血圧症学会(ISSHP)に参加してきました。
この学会は、妊娠高血圧症候群(昔は妊娠中毒症と呼ばれていました)研究の、国際的な中核学会で、2年に一度開催されています。
現在この学会の会長を務めるB.Shibai教授は、多くが一見胃痛と見紛うような上腹部痛で始まり、重症化するとに高度の肝機能異常や止血異常、さらには母体死亡につながる妊娠高血圧症候群の特殊な重症型を、HELLP症候群としてはじめて体系的に報告した方です。HELLP症候群は、早期に診断と治療が行われた場合の予後は良好です。彼の報告により、胃痛や胃炎のプライマリーケアにあたる、内科も含めた現場の医師の認識が進んだことで、多くの妊婦さんの大切な命が救われたと考えられます。
HELLP症候群は、多くはないものの決して稀な症例ではなく、今回の私の留守中にも、当院で管理中にそれを疑う症状が出現された方がおられました。
夜間の症例でしたが担当医が適切に診断して(SACRAは時間外でも院内で緊急の血液検査が可能です)、関連の奈良県立医大に搬送しています。早期に治療を行ってもらったおかげで、重症化をまぬがれ、良好な経過となりました。
学会は、非常に中身の濃いものでした。
新生児医療の水準が先進国(特に日本)と発展途上国で全く異なるため、根本治療である妊娠終了を決断する時期など、治療の部分に関しては日本の状況とは少し異なると考えられますが、ジュネーブに本部をもつ世界保健機構(WHO)から、昨年示された妊娠高血圧症候群の予防と治療に関するグローバル・ガイダンスに関して、詳細な説明がありました。
予防に関して、SACRAのようにリスクが低い方に関する具体的な項目を列記します。
1.特にカルシウム摂取が少ない地域(具体的には発展途上国)でのカルシウムのサプリメンテーション(補充療法)は、強く推奨されます。日本のカルシウム摂取量は、欧米先進国に比しても決して多くはありませんので、私自身は日本でも有用だと考えます。
2.ビタミンCとEのサプリメンテーション(補充療法)は、効果を否定するデータもあり、推奨はされません。私自身は、少なくとも有害ではないビタミンCとEについて、サプリを全員に使用しても予防効果が証明されないことであって、摂取自体は促すべきだと考えています。
3.妊娠高血圧症候群の発症予防を目的とした自宅安静は、推奨されません。
4.塩分制限も、国際的には効果が証明されず推奨項目に入りません。SACRAでも、少なくとも厳しい塩分制限は指導していません。
なお、興味深かったのは、10年前にはなお、妊娠高血圧症候群の原因なのか結果なのかの完全に結論までは出ていなかった、胎盤の血管形成の低下に関して、妊娠高血圧症候群の病因として、妊娠8週~15週に生じるの胎盤の血管新生(おおざっぱには胎盤の子宮内膜への食い込み)の異常が妊娠末期の妊娠高血圧症候群の発症につながっていくことが、すでに事実として受け入れられていたことでした。
臨床的にも母体の血液で、血管新生の異常を反映すると考えられるある種の物質を測定し、のちに妊娠高血圧症候群を発症するハイリスク例をスクリーニングすることも、費用対効果など実際の臨床的な意味は別として、現実のテーマになっています。
さらに妊娠高血圧症候群の病因が、受精卵から形成される胎盤の血管新生の異常にあるということは、受精卵のもう一つの構成要素である父性因子も、その発症メカニズムに何らかの関連を持つことになります。
それが、母体の免疫的なもの(大雑把にいうと、他人である夫由来の父性因子も発現している胎盤に対する、母体からの攻撃)によるのか、遺伝子刷り込み(ゲノムインプリンティング)と関連して父性因子が重大な役割を果たすと考えられている胎盤の遺伝子発現そのものの変化によるのか、はっきりと解明されているわけではありませんが、父性因子の関与も事実として受け入れられていたことも印象的でした。
早口の英語でフォローするのが大変でしたが、その妊娠が成立する前に、ハネムーンベイビーのように(特に父となる)精子とに接触が少ないほど、あるいは以前の接触(指標は前回の妊娠からの年数)からの年数が経過すればするほど、年齢を補正しても妊娠高血圧症候群の発症率は増加することも示されていました。
当院の不妊外来を担当する橋本先生は、以前から「不妊治療中も普通に自然な夫婦生活をするのが良い」と言っておられますが、上記の観点からもその指導内容は正しいと考えられます。」
さらに受精卵の着床(子宮内膜への最初の食い込み)と、胎盤の血管新生(妊娠8週からのさらなる食い込み)は、互いに関連する可能性が高く、普通に自然な夫婦生活を行うことは、不妊治療そのものにも有利に働く可能性も考えられます。
また個人的には、英国留学時代の恩師であるJ.M.Davison教授に、久しぶりにお会いできたことも喜びでした。
Davison教授はISSHPの重鎮で、今年で御年70歳です。いちおう2004年に現役を引退(ウィーンでのISSHPの直後にニューカッスルで行われた退官記念講演・パーティーには、私も出席しました)されており、ご自分のことを「ダイナソー(恐竜)だ」などと言っておられましたが、ジョークだけではなく研究分野の知識もまだまだ現役でした。
今回は事前に学会主催のディナーを予約できていなかったせいで、奥様にはお会いできませんでしたが、2年後の再会を約束してお別れしました。
行き帰りが遠いので少し疲れましたが、知識をアップデイトするとともに、良いリフレッシュになりました。
得て来た情報は、橋本・古谷先生とも共有して、SACRAで管理中の妊婦さんたちに役立てればと考えています。
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- 2012.06.04
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風疹が流行しています : 妊娠8~10週に行う初期検査前のかた・あるいは初期検査で風疹抗体が低いまたは陰性といわれたかた、ご注意ください
新聞報道でご存じの方もおられるかもしれませんが、風疹が流行する兆しがあります。
本日、奈良県産婦人科医会からも注意喚起の連絡がまいりましたので、本稿を記しました。
プリントしたものは、院内の掲示板にも張っておきます。
以下をよくお読みになって、十分にご注意ください。
抗体陰性のかたも必ず罹患するわけではありません。逆にいえば、いままで20年以上生きてこられて一度もかかったことがないということです。過度に恐れる必要はありませんが、注意を怠らず、ご自身と赤ちゃんを守ってください
1. 風疹について
風疹は、風疹ウイルス感染によって発症し、発疹、リンパ節腫脹、発熱等の症状を呈する疾患です。
我が国では、1994年に(女児だけではなく)男児にも風疹ワクチンを接種するため予防接種法が改正され、翌年5月より基本的に全ての児童への接種が開始されたことから、近年の発生数は減少していました。
しかし本年は国内での届出患者数の増加が報告されており、奈良県内の届出患者数も第20週(~5/20)までの累積届出数が62名と、平成20年以後で最大となっているようです。
2. 先天性風疹症候群
妊婦が妊娠初期に風疹に罹患すると、胎児に感染して白内障や緑内障などの眼症状、先天性心疾患、難聴などを引き起こすことがあり、先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome : CRS)とよばれています。
一般的に妊娠中の感染時期が早いほどCRS発症のリスクは高く、排卵前および妊娠7カ月以降の発症ではCRSは認められないとされています。
3. 風疹に対する抵抗力(抗体価)
当院では妊娠8~10週で行う妊娠初期検査で風疹抗体価をチェックしています。
結果は母子手帳に添付していますので、ご自身でも「風疹ウイルス HI法」の欄をチェックしてください。
①8倍未満のかた
抗体陰性ですので、風疹に対する抵抗力がなく、ウイルスと接触すると罹患の危険があります
②8倍~16倍のかた
抗体はありますが低抗体価であり、風疹に対する抵抗力が弱く、ウイルスと接触すると罹患することがあります
③32倍以上のかた
抗体価からは、基本的に風疹罹患の心配はありません。ただし一般的な予防対策(人ごみを避ける、うがい・手洗いの励行)は行ってください
4. 風疹抗体価が陰性(①:8倍未満)、あるいは低抗体価(②:8~16倍)のかたへ
・ 特に妊娠24週頃までは、人混みや子供の多い場所への出入りを避けてください。
・ うがい・手洗いを励行してウイルスの侵入を防ぎ、睡眠時間も確保して規則正しい生活を心がけ、基礎抵抗力を落とさないようにしてください
・ 同居されているご家族(特にご主人)への風疹ワクチン接種を検討ください。なお妊婦さん本人は、生ワクチンである風疹ワクチンを接種できません
・ 発疹が出現したり風疹患者と接触した場合は、いきなり来院せず、お電話いただくか、内科に受診して診断してもらってください
・ 今回の妊娠が終了したら、次の妊娠の前に風疹ワクチンを接種することを検討ください。なお、接種後2ヶ月の避妊が必要になります。
SACRAレディースクリニック院長 阪本義晴
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- 2011.02.21
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- 2006.09.06
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今日はSACRAに初めておいでいただく患者様のために、外来における診察の流れについて説明させていただきます。
初めておいでいただいた場合は、まず受付で問診表の記入をお願いしています。問診表の内容により産科の患者様は第一診察室(担当阪本)、不妊・婦人科の患者様は第二診察室(担当橋本)にご案内します。
そのあとそれぞれの診察室で、問診表を参考にして現在の状態をお聞きします。それと同時に過去にかかられた病気や、上のお子様のお産のこと、さらに喘息などのアレルギー疾患をお持ちになっていないかなどもお聞きします。
そのあと内診室にご案内します。内診は、初めての患者様は特にだと思いますが、抵抗感をお持ちの方が多いです。下着をお取りいただいてお上がり頂くわけですから、抵抗を感じられて当然だと思います。しかし内診でしか得られない情報も多いため、申し訳ありませんが皆様にお願いしています。
内診台は少しでも抵抗感を少なくできるように、腰掛椅子タイプを採用しています。内診台に腰掛けるようにお座りいただいた後、スタッフがスイッチを入れると、回転しながら足を徐々に開いていって自動的に内診の体位をとるようになっています。
内診はカーテン越しになりますので不安も強いかと思いますので、通常の手順を説明します。
まずクスコという膣鏡を膣のなかに入れて、膣の分泌物の状態を確認します。その際に必要な方は、子宮がん検査や分泌物の検査などを行います。そして膣内を洗浄してクスコを抜きます。
最後に経膣超音波検査を行います。これはカバーを被せた細い棒状の超音波プローベを膣内に入れて子宮や卵巣を観察する機械です。当院では患者様にも超音波画像がご覧になれるように、内診台の上から見えるようにモニター画面を設置しています。
超音波が終われば内診は終了です。
妊娠中期でお腹の上からの超音波を行う患者様以外は、その後診察室にお入りいただいて診察結果を説明します。
もし不明な点があればいつでもお聞き下さい。またどうしても内診に抵抗がある方は、問診の際におっしゃっていただければと思います。しかし内診しないと分からないことも多いです。また内診の際に痛みを感じられた場合はご遠慮なくおっしゃってください
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- 2006.08.17
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A rolling stone gathers no moss ―帝王切開術後に動け動けと言うのは患者さんが憎いからではありません
SACRAで帝王切開を行った場合の入院期間は、帝王切開当日を入れて8日間です。もちろん母体の回復状況により、数日間の入院延長が必要なこともありますが、ほとんどの方は予定通りに退院されています。
これは手術翌日の午前中に尿道カテーテルを抜いて室内トイレまで歩いていただき、それ以後もどんどん体を動かしていただくことによって可能になります。私と橋本先生で行うSACRAの帝王切開が手術時間30分程度で、腰椎麻酔も最も細い針を用いて行うため術後の安静期間が短くて済むためこのような早期の離床が可能なのですが、何よりも患者さん本人のご努力によるところが大きいです。
以前のブログの「お産の安全性」のところに記しましたように、分娩にはなお一定の危険が付きまといます。分娩時の大量出血は過去も現在もその危険の最たるものですが、最近注目されているのが逆に血液が固まりすぎてしまう状態です。これはエコノミークラス症候群の名前で一般に知られていますが、その本態は過度の安静などにより骨盤内や下肢の静脈内で血液が固まってしまって(深部静脈血栓症)、安静を解除した時にその血の塊(血栓)が血流に乗って飛んで肺動脈を閉塞する状態(肺血栓塞栓症)です。症状は飛んだ血栓の大きさと肺動脈の閉塞の程度に左右されますが、運悪く大きな血栓が飛んで肺動脈を起始部で塞いでしまった場合には、大学病院などの高度医療機関で発症した場合でも救命のチャンスは多くはありません。
妊娠中ならびに分娩直後は、母体の血液凝固能(血が固まる力)が出血に備えて高まっていることや、子宮の圧迫により下肢の静脈の流れが滞りやすいことから血栓が生じやすく、手術による組織のダメージに引き続いて術後の安静を強いられる帝王切開後は特に深部静脈血栓症の危険が増すと考えられています。
私は大学時代から日本肺塞栓研究会に参加してその分野の臨床研究にも携わってきました。SACRAではその知見を生かして、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症の予防対策に力を入れています。予定帝王切開の場合は、手術当日まで通常の生活をしてしっかり体を動かしておいてもらいます。入院後は、術前から十分な輸液を行って血液が濃くなって凝固能が亢進するのを防ぎ、下肢には静脈の拡張を防ぐ弾性ストッキングを着用していただきます。それに加えて、多くの症例では手術中から離床まで空気圧を利用した下肢静脈ポンピング装置を装着します。そして何よりも有効なのが、麻酔が醒めたら出来るだけご自身で足を動かして、早期に離床していただくことなのです。
英語のことわざに“A rolling stone gathers no moss(転石苔を生ぜず)”があります。元々はmoss(苔)を良いものとして「石の上にも3年」に近い意味のことわざですが、転じてmossを悪いものと捉え、常に動き続けることを奨励し、新しいことへのチャレンジを促す意味にも使われます。
人の体は川の中で転がる石のように、常に動き続けるほうが自然なのです
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- 2006.08.10
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秋篠宮妃の紀子さまが前置胎盤だと言うことは皆さんニュースでご存知のことかと思います。幸い現在のところは非常に順調に経過されており、9月6日に帝王切開によりご出産になられる予定だそうです。
前置胎盤は子宮頚管に胎盤がかかっている状態(イラスト)で、陣痛が来て子宮頚管が開くと大量出血が生じる可能性があります。現代医学の発達により妊娠中の超音波検査(経膣法)で診断ができるようになり、陣痛が来て大量出血をきたす前に帝王切開を行って母児ともに救命することが可能になりましたが、過去には死に至る病でした。また現在でも、癒着胎盤などを合併している場合には帝王切開を行っても危険な状態になることもあります。
出生10万当たりの妊産婦死亡率
1950年(昭和25年) 176.1
1955年(昭和30年) 178.8
1965年(昭和40年) 87.6
1975年(昭和50年) 28.7
1985年(昭和60年) 15.8
1995年(平成07年) 7.2
2001年(平成13年) 6.5
これは戦後の妊産婦死亡率(出生10万人あたり)の変化です。高度成長期を境に急速に低下しているのが分かります。これは過去に主流であった自宅分娩が減少して病院・診療所での分娩が一般化したこと、医学が発達して前置胎盤などの危険な状態が分娩前にわかるようになったこと、妊婦さんの啓蒙が進んで体重管理などが徹底し、妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群)などの危険な合併症が減ったことによるところが大きいと考えられます。つまりこの成果は、過去の産婦人科医ならびに助産婦、そして妊婦さんご自身のたゆまぬ努力によって、成し遂げられてきたものなのです。
ただ残念ながら現在もなお0にはなっておらず、分娩にはなお一定の危険が伴います。お産というのは、妊婦さんが命がけで新しい命を作り出す、崇高な作業なのです。
SACRAでは緊急時にそなえて、橋本先生と私の常勤医2名の体制をとっています。
また母児の状態を慎重に評価して、前置胎盤などの症例は分娩前に高度医療機関に紹介しています。さらに分娩時の弛緩出血などの事前の予測が不可能な事態には、場合によっては大学に緊急搬送して高度な医療が受けられるような連携体制を整えています。
「お産は案ずるより産むが安し」というのもまた事実ですが、リスクを認識してそれを最小限にするように妊婦さんとともに努力することが、お産の安全性をより高めるものと私は考えます。
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- 2006.07.20
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最近新聞などで、分娩可能な施設が減少しているとの報道を目にすることが多くなりました。特に山間部などでの影響が深刻なようで、地域によっては分娩施設まで2-3時間もかかることもあるようです。
しかし実は日本のように、分娩可能な施設が多数あって施設を選んで分娩できるのは例外的です。米英など多くの先進国は医療圏に1つの大規模分娩施設を整備するセンター分娩制をとっており、私が滞在した英国ニューカッスル大学、Royal Victoria Infirmaryの分娩センターも、市内だけでなく周辺地域(人口ベースで数十万人)から年間約5000の分娩を受け入れていました。
こういった効率優先のセンター分娩制ではなく、ホスピタリティーあふれる助産院から、最先端の設備とスタッフをそろえた大学病院まで、種々の施設から分娩場所を選択できる日本は、妊婦さんにとって非常に恵まれた環境にあるといえるかも知れません。
だからこそ分娩施設の選択は大事なことだと思います。ホスピタリティーを考えれば一人の助産師が付ききりで分娩介助を行い、母乳・育児を指導する助産院にかなう施設はありません。逆に、母児の緊急事態への対応の懐の深さでは大学病院などの高度医療機関の方に分があります。また自宅から分娩施設までの距離は近いほうが有利です。ただ母児の緊急事態も、「有効な陣痛が来ているのに分娩が進行しない」、「胎児がこれ以上のストレスに耐えられない」などの理由で陣痛が来てから帝王切開が必要となる局面は時に生じますが、一刻を争わなければ母児の生命に関わるようなことは稀です。またほとんどの分娩は、陣痛が来て分娩にいたるまで数時間から十数時間かかるため、分娩施設が自宅のとても近いところにないといけないわけではあません。
SACRAでは事前にお書きいただいたバースプランを出来る限り尊重しながら、母児の安全を第一に考えた分娩管理を行っています。そのため胎児心拍の異常の有無を確認するために分娩監視装置を装着し、分娩時の出血に備えて静脈ルート確保(ブドウ糖の点滴)も行います。また緊急時に備えて大学と連携しながら、私と橋本先生の常勤医師2名で緊急帝王切開などに対応できる体制をとっています。
分娩施設を選ぶのに、何を第一義と考えるかは患者様それぞれ違うと思います。もし「分娩監視装置も静脈ルート確保もいらない、とにかくホスピタリティーあふれる“自然”な分娩をしたい」ということなら、SACRAよりも助産院が最適ということになります。それ以外にも、担当の医師や他のスタッフとの相性なども大事なポイントだと思います。とにかく、ご自身が納得できる施設を選んで分娩されることが一番だと思います。
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- 2006.06.15
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最近メールで複数の方から、「不妊治療に通っていて通常の治療ではなかなか結果が出ない。そろそろステップアップを考えるが、夫があまり協力的ではない。どうすればよいか?」とのご質問をいただきました。ご主人が躊躇われる理由はそれぞれですが、人口受精や体外受精のような人工的な操作が加わることに抵抗があったり、精液検査などのために奥様と一緒に産婦人科に通うのは抵抗がある、などのようです。
確かに赤ちゃんがいないことが、何らお二人の関係や、奥様の女性らしさを損なうわけではありません。「自然にまかせるのが一番、だめならそれでもよい」というのも一つの考え方だと思います。
ただここで知っておいて頂きたいのは、最先端の不妊治療であっても、戻された胚が子宮に宿って赤ちゃんになっていくほとんどの過程は、自然の妊娠と変わらないということです。精子が少ないときなどに行う顕微授精(ICSI)にしても、極細のガラスチューブを用いて精子を卵子に注入する操作は高度の熟練を要して確かに人工的ですが、受精卵が細胞分裂して胚になっていくのは受精卵自体の力によるものです。さらに子宮内にもどされた胚が子宮内膜に着床して胎児となっていく過程は、全く自然に起こる妊娠と同じです。過去に使われた「試験管ベビー」という言葉は、全く実態に即さないものです。
もしご主人も強く赤ちゃんを望まれているのなら、やはり奥様と同時にご主人に対する検査も進めていくのが効率的です。それには男性にとって抵抗が多い精液検査なども含まれますが、事前にご予約いただけば自宅で採取した精液で検査を行うことも可能です。もちろんその結果、精子数が少なかったり、運動率が悪かったりしてショックを受けることもあるかもしれませんが、逆にいえば原因がわかれば対策を立てることもできるようになります。
SACRAの不妊外来には多くのご夫婦が一緒に治療に通われています。現在受診をためらわれているご主人様も一人で悩まずに思い切って奥様と一緒に来院いただいて、疑問点を橋本先生に質問されれば、徐々に道が開けることもあるかと思います。
もちろんステップアップだけが結果に結びつくわけではありません。お二人の意見がなかなか合わないなら、いっそしばらく治療を休んでみるのもひとつの方法です。治療のストレスから開放されて、かえってよい結果がでることもあります。
実際はなかなか難しいのですが、意見が合わないときこそお互いの考えに耳を傾けてみることが大事だと思います。
蛇足です。以前にも書きましたが葉酸は妊娠初期から重要な栄養素です。不妊外来に通院中の方々は来るべき妊娠にそなえて、葉酸を多く含む緑黄色野菜の摂取をお願いします。